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部落出身ばらされたくなければ500万円払えと恐喝

元慶大生による連続差別脅迫ハガキ事件

      

 1993年9月、東京都内をはじめとする関東在住の複数の部落民の個人宅に、「おまえが部落民であることを突き止めた。ばらされたくなかったら500万円をよこせ」といった内容の悪質な差別脅迫ハガキが連続して届けられる事件が発生しました。
 この事件について私たちは7年の歳月を費やして調査をおこない、さまざまな協力を得てついに犯人を突き止めることに成功しました。
 犯人は元慶応大学生Aでした(犯人Aは2000年4月12日慶応大学を退学処分となりました)。彼は5月17日警視庁に逮捕され、6月7日には部落解放同盟東京都連合会同盟員に対する脅迫の罪で東京地検から起訴されましたが、事件の根本的解決と再発防止策はこれからです。
 この事件について部落解放同盟東京都連合会人権対策部は、次のような報告を発表しています(報告は逮捕前に発表されたもの)。


差別脅迫ハガキ事件の犯人判明と今後の課題

部落解放同盟東京都連合会人権対策部

 1993年9月、悪質な連続・差別脅迫ハガキ事件が始まった。私たちは実に7年の歳月を費やしながら、犯人を突き止めることに成功した。犯人は慶応大学の学生Aである。犯人が判明したことで、差別脅迫ハガキ事件の全容解明が大きく前進した。
 部落解放同盟及び慶応大学による犯人からの事情聴取をもとに、事件の事実関係と核心について明らかにする。そして今後の課題と闘いの方向について明らかにする。

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1.犯人特定の経過

 1999年4月から6月にかけてJR田町駅、品川駅で連続差別落書きが発見されたことが、JR東日本人権啓発室からの連絡でわかった。落書きの内容は「愛国の士に告ぐ! 地下鉄サリン事件は部落民麻原彰晃が部落解放同盟の命令で実行したものである!日本人殺戮を企む殺人集団部落解放同盟に死の制裁を! われらが部落追放同盟に結集せよ! 〇〇〇〇〇〇」(〇は個人の住所、氏名、電話番号が記載されていた)と差別を扇動する内容であった。
 この落書きの筆跡が差別脅迫ハガキ事件の犯人の筆跡に似ていることから都連は調査を開始した。落書きに記載されている人に連絡をとり、慶応大学の学生B君であること、この人も嫌がらせを受けている被害者であることがわかった。
 こうした調査を進めているとき、6月に慶応大学から都連に連絡があった。慶応大学の担当者によれば、「4月中旬以来、学生B君に対する実名入りの性的侮辱落書きが校舎内トイレで頻発した。6月には、JR田町駅・品川駅の落書きと同じ内容の差別落書きが発見された。
 大学では、頻発する落書きに対して、見回りを強化していたところ、学生A(犯人)がトイレに落書きしたところを発見した。その後も落書きがつづき、大学としては、学生Aに対して事情聴取をしているところである」との報告であった。この時、都連は、連続差別脅迫ハガキ事件、JR田町駅・品川駅連続差別落書き事件について「犯人は同一人物である」ことを話し、大学と連携しながら取り組んでいくことを確認した。
 その後、犯人はしばらくの間、差別落書きや差別脅迫ハガキの実行行為を否認し、言い逃れしていたが、8月には大学内外における差別落書き、連続差別脅迫ハガキの実行行為を認めた。
 部落解放同盟東京都連合会、部落解放同盟千葉県連合会、部落解放同盟埼玉県連合会の三都県連合会の対策会議をおこない、大学の犯人に対する事情聴取・指導を見守ることにした。
 その後、犯人は「差別脅迫の動機、同盟員の住所、氏名の特定方法、解放同盟に対する偏見など」について明らかにしたが、大学の「自分の行為の卑劣さと重大性をしっかり認識し、反省し、事件関係者に謝罪すること」を求めた教育的指導に対して「復讐行為は間違っていない。今後も復讐行為を続ける。」と全く反省せず、開き直った。

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2.大学による事情聴取の内容

(1)差別脅迫の動機

 犯人は差別脅迫の動機について「すべての行為について動機は、差出人として名前を書いた人物に対する復讐である。自分は無力な個人なので復讐行為を解放同盟に代行してもらおうと考えた。」と述べている。
 具体的には、差出人として最も多く使われているI学園(千葉県内の私立学校)の元校長・同級生への復讐の原因について犯人は「〇〇(同級生)は、私をI学園から追い出した主謀者の一人である。当時、私は月刊誌『新潮45』から依頼を受け、登校拒否体験について原稿を執筆している最中であった。作業を進める必要から当時の記憶を丹念に掘り返していく過程で、それまで約10年間抑圧してきた怒りと憎しみがなまなましく蘇り、事件の関係者に対する怒りで夜も眠れぬ日々が続いた。自分の人生が狂い(ママ)はじめた原点はI学園にあるとはっきり自覚したのはこのときである。…このときは〇〇の名前を使って、こいつの家の近所に数百枚の脅迫状をばらまくということもしている。これらの葉書は全て、〇〇を殺す代わりに書いたものである。」
 また「依然としてI学園関係者に対する怒りはおさまらず、〇〇(元校長)の自宅の近辺を偵察して放火の機会をうかがっていた。このときの葉書は、〇〇の家へ火を放つ代わりに書いたものである。」と中学時代のいじめの加害者およびいじめの事実を否定した元校長に対する恨みに起因していると述べている。

(2)部落差別意識、解放同盟への予断と偏見

 犯人は今回の行動背景の中で部落解放同盟に対する予断と偏見を「私は、自分自身のいじめ体験に根ざす差別問題への関心から部落問題に関する文献を数年、渉猟してきた。その過程で、部落解放同盟こそは、かつての水平社の運動を正統的な立場から後継すると自称しているにもかかわらず、かの格調高き水平社宣言を冒涜するかのように利権あさりと売名行為を繰り返している民主主義破壊の暴力集団であり、現代日本社会を蝕む最大の癌のひとつであることを知るに至った。」また「今回の連続ハガキ事件をおこすにあたって、これらの知識に基づく反解同意識が大きな役割を演じていたことは私も否定しない」と述べている。

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3.部落解放同盟と犯人との面談

 部落解放同盟の事情聴取を拒否していた犯人は、1999年12月に慶応大学の「処分手続きの開始の通知」を受けて、一転して解放同盟との面談を受け入れた。その際、大学担当者に「関係者に土下座でもなんでもするから許してくれ」と言ってきた。明らかに犯人は、大学に残りたい一心で部落解放同盟との面談を了解するに至った。こうした犯人の姿勢は、大学の処分内容によっては、差別脅迫行為にまた、走ることが予想される。
 部落解放同盟は、2000年1月24日、犯人と面談した。主要には、(1)差別脅迫行為の事実確認(2)犯人が本当に反省しているかどうか(3)差別脅迫行為をくりかえしたら、告訴などの法的手続きに入るとの最後通告である。
 犯人は実行行為については認めた。しかし、「人に仕返しをすることは、間違いではない。手段が間違っていた」「周りの人から、とにかく解放同盟に迷惑をかけたのだから謝るしかないと言われたので来ました」などとの返答であり、心から反省している姿勢ではなく、言葉だけの反省であった。
 こうした、犯人に対して、心から反省し、反省文を提出するよう要求、また、再び差別脅迫行為をおこなったら、組織をあげて糾弾すること、また、告訴することを最後通告して終えた。
 2月中旬に犯人から反省文は送られてきたが、反省文になっておらず再提出するよう要求した。

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4.事件の差別性と問題点

 今回の差別脅迫ハガキ事件で第1に確認しておかなければならないことは、事件の特徴と差別性である。事件の特徴は同盟員の個人宅に脅迫状を送り付けた手口にある。いまだかつて同盟員の個人宅に連続して脅迫状を送り付けるという手口の差別事件はなかった。前代未聞の差別事件である。
 脅迫状を送りつけられた同盟員のひとりは「これ以上の脅迫やいやがらせがないか、また家族のことが心配」と話しており、脅迫状を送りつけられた同盟員は大きな衝撃を受けているのである。
 また、「部落出身の身元を暴露する」と脅迫してきている点に最大の差別性がある。この脅迫状を送りつけられた同盟員のひとりは「近々、娘の結婚式を控えており、ハガキが来た時、娘の結婚式を壊すために脅迫状を送りつけてきたのではないかと思った。心配で夜も眠れなかった。」と訴えている。
 今日でも結婚差別で命が奪われつづけている部落差別の現実を考える時、今回の差別事件は仲間の生活を脅かし、命をも奪いかねない差別行為であり、同盟員個人をターゲットにした許すことのできない差別脅迫事件である。
 第2に問題点として確認しておかなければならないことは、今回の事件は現代社会が生み出している新たな差別事件であり、差別者(犯人)もストーカー犯罪者に似通ったタイプの人物である。こうした差別脅迫者の犯人対して、如何に闘うのかが問われる事件である。
 今回の事件では、差別脅迫行為の動機の中に社会的背景が現れている。犯人は個人的な復讐行為の代行を部落解放同盟におこなわせるために、同盟員に対する脅迫行為、差別の扇動行為、部落解放運動に対する敵対、挑発行為という最も卑劣な手段を用いた最悪の差別者であり、事件が露見しても反省もなく、開き直るという確信犯である。
 また、こうした行為の根っこに、中学時代のいじめ体験がある。(犯人の言い分によると) 犯人は、「私を自殺への誘惑から救ってくれたのは、ある種の復讐心だったとしか言いようがない」と述べており、復讐心で唯一、自分を支えるに至った。そしてストーカーのように執念深く、I学園関係者への脅迫行為を繰り返し、「元校長の家に行って放火しようとした」ところまでエスカレートしていったのである。犯人は、こうした復讐を動機にしながら、犯人によれば「部落問題に関する本を数年来、読みあさり、全解連や部落問題研究所や日本共産党の発行図書、高木正幸の著書から『反解同意識』を形成していった」と述べている。この「反解同意識」と「復讐」が結びついて今回の犯行行為に至ったのである。
 こうした犯人に対して慶応大学は、粘り強く、「心から反省し、人間として立ち直るよう」に教育的指導を続けた。しかし、犯人は、「復讐行為は間違っていない、今後も続ける」「大学や解同や法務局がI学園関係者を引きずり出して私に謝罪と賠償をさせることができたとき、初めて私は解同員たちに心から謝罪できるのだ」との身勝手な論理で開き直っていったのである。
 われわれも、「犯人が真に反省」するように働きかけてきた。しかし、犯人は解放同盟の事情聴取を長い間、拒みつづけながら、大学から処分されそうになると一転して、面談に応じ、口先だけ「反省している」と口にするが、「心からの反省も謝罪」もしようとしていないのである。
 われわれは、「犯人が心から反省するよう」働きかけつづける。しかし、再度差別脅迫をおこなえば、犯人に対して告訴等の厳しい姿勢でのぞむ。そして「犯人が真から反省しない限り絶対に許さない」「二度と犯人に差別脅迫行為を許さない」これが犯人に対するわれわれの取り組みの基本的姿勢である。
 第3に今回の事件の問題点は、東京法務局・法務省の取り組み姿勢である。また、「人権侵犯事件調査処理規定」をはじめとして、法務省・東京法務局などの人権擁護行政が法的、制度的限界を浮き彫りにしていることである。
 今回の差別脅迫ハガキ事件が発生して、以降、われわれは、何度も東京法務局や法務省人権擁護局に取り組み要請をおこなってきた、しかし、東京法務局そして法務省も「犯人が特定されていないので、人権侵犯事件として取り上げられない」「情報収集しかできない」と事件関係者に対する事情聴取すらできないとの対応に終始してきた。
 さらに、1999年6月に犯人が発見され、10月には慶応大学から「事件の報告」があり、「犯人と面談してほしい」と取り組み要請を受けていながら、2000年4月にいたっても、犯人にあっていない。事件の被害者・関係者(差出人として名前を使われた人)に会っていないのである。
 われわれは、2月8日の法務省交渉でも「差別脅迫ハガキ事件の犯人が慶応大学の学生であることがわかった。法務省として、どう取り組むのか」と強く迫った。しかし、法務省は、「個別事犯には回答できない」と回答を避けつつ、「何らかの対処をおこなう」と具体的にどう取り組むか明らかにしなかった。
 事件が発生してから7年が経過し、この間、何の取り組みもせず、犯人が発見されてから10カ月経過しても、犯人との面談、事件関係者の事情聴取もしない、法務省・東京法務局の人権擁護行政は、人権擁護局の名に値いしないことが証明されたのである。

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5.今後の取り組み課題と方向

 今後の取り組み課題の第1は、犯人に対して二度と差別脅迫行為をさせないことである。差別脅迫行為の再発防止が最大の課題である。われわれは犯人が「心から反省する」意志がないと断定せざるを得ない。そこでわれわれは、すでに犯人に対して「再度、差別脅迫行為をおこなったら告訴等の法的手続きをとる」と最後通告した。そして、「二度と差別脅迫行為を許さない、もし、おこなえば解放同盟の組織をあげて徹底的に糾弾する」と最後通告した。犯人に対しては、差別脅迫行為を二度と繰り返させないことを中心に取り組みをおこなっていく。
 第2には、慶応大学に対して、今回の事件の大学としての「見解」を求め、今後も連携して、取り組みをつづけること、そして今回の事件を教訓にして、大学での人権教育の基本方針と取り組み体制の確立を求めていくことである。
 慶応大学は、犯人が判明して以降、実に真摯に事件と取り組み、犯人に対して、粘り強い、教育的指導をつづけた。そして慶応大学は学長名で「塾生諸君に告ぐ」との学内声明を出している。声明で「塾生諸君、これを期に改めて差別や人権侵害のない大学にすることを教職員と一体となって考え、学び、そして実行に移しましょう」と学生に訴えている。われわれは、慶応大学の今後の人権教育の取り組みに強く期待するところである。
 第3には、すでに人権擁護推進審議会で人権救済制度が検討されているが、この審議会で差別脅迫や差別扇動と闘う武器となるような答申をかちとることである。そして政府・行政から独立した人権擁護機関・人権委員会の創設を実現することである。法務省、法務局の人権擁護機関、人権擁護委員は国民一般を対象に人権思想の普及高揚ないし啓発、相談活動を行う一方、人権侵犯事件について調査処理していくことが義務づけられている。
 しかし、人権侵犯事件の調査処理は手続き上被害者の申告に始まり、関係者の任意な協力、事実の調査説示といった事後処理的な調停機能が中心で人権侵害が確認されても勧告・意見発表にとどまり、法的強制力を欠如している。悪質な人権侵犯によっては直接侵害行為を停止させる強制力の必要が出てくるが、それも現行法では効果的な対処がなされ得ない。
 今回のような、犯人に対しては「直接侵害行為を停止させる強制力が必要であるが、現行法では、効果的な対処ができないことが浮き彫りになった。明らかに法的限界を示している。1998年11月5日に国連人権委員会は、日本の国際人権B規約の順守状況に関する審査を終了し、日本政府への勧告を採択した。この中で委員会は日本の人権擁護行政に対して「政府から独立していない」と批判し、人権侵害、警察権力の乱用などを調査し、救済する新たな独立機関を強く求めている。今回のような事件の抜本的解決のために、中央労働委員会や公害等調整委員会のような独立性と独自の強制権限に裏打ちされた「人権擁護機関・人権委員会」を設置することが必要である。
 以上の今後の課題と闘いの方向を確認し、差別脅迫ハガキ事件の取り組みを組織をあげて闘っていこう。

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