Internetと部落差別-INDEX


3.迅速対応の体制と法規制が必要人権活動のネットワークの構築を

渕本 稔さん
人権ステーション

 インターネット上のでの差別事件に対して、部落解放同盟中央本部はもとより全国各地で解決にむけて取り組みが進められていますが、まだ、明確で抜本的な解決策は見いだされていません。その理由は、憲法で保障された通信の秘密を、インターネット上での差別事件にも適応するのかどうかという見解が整理されていないからであります。
 インターネットの接続業者であるプロバイダーは全国で数千社もあり、ソニーや富士通といった大会社が経営しているものもありますが、その多くがベンチャー企業として登場した小規模の会社です。大会社を中心にテレコムサービス協会というプロバイダーの業者組織がつくられ、協会が設定したガイドラインによって、犯罪の煽動やほう助・ポルノ映像の無制限な流布・悪質な人権侵害などに対して、警告を行ったりホームページを停止・削除する措置が決められています。ところが、差別煽動や個人・団体に対する誹謗中傷に関しては、プロバイダーの窓口担当者による意識の高低によって、その取り扱いが大きく変わってしまうのです。実際、私がこれまで何度かプロバイダーに提起した差別煽動のホームページに対して、窓口担当者は差別にあたることがすぐには理解できず、何度も説明しなければ要領を得なかったことがありました。テレコムサービス協会に加盟しているプロバイダーであってもこのような対応であり、加盟していない小さな業者、ましてや日本の部落差別が理解できない海外の業者の場合、適切な措置がとられるまでには膨大な時間と労力が必要となり、しかも、それが実現するとは限らないのです。

プロバイダーの社会的責任を明確にし、担当者設置を

 こうした実態を踏まえるならば、全てのプロバイダーに対して(当面は国内業者に限ることになる可能性が大きいが)、差別・人権侵害に対する担当者を設置して、適切かつ迅速に対応できる体制の確立が求められます。現在プロバイダーに設置されている相談窓口は、主に技術的な問題に対応するものなので、その窓口をさらに拡大強化し、人権相談員のような担当者を常駐させることです。また、プロバイダー自身のホームページは多くの人々が訪れるページなので、このトップページに人権問題のコーナーを設置して、差別煽動は許されない行為であることの啓発を行うことも考えなければなりません。
 このような措置を、田畑さんや私たちは旧郵政省に対して提言し続けてきました。また解放同盟中央本部も、インターネット上の差別煽動に対して法規制を求めてきました。前回も紹介したように、こうした取り組みが功を奏して昨年12月、旧郵政省の「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会」が、インターネット上の情報流通ルールについての報告書を公表しました。これまでは、私達が当事者としての話し合いを実現できるようプロバイダーに求めても、「通信の秘密」として差別煽動の実行者に関する情報は開示されず、その取り組みに限界がありました。ところが今回、報告書においては「公全青を有する通信のように通信内容自体が公開されて秘密性がないような場合には、発信者の氏名・住所等を通信の秘密として保護する実質的な理由は弱いと解される」として、今後は発信者情報を一定の条件のもとに開示する方向を示したのです。これは、マスコミにおいてもネットの匿名性を悪用した不法行為を防止するために発信者情報開示義務付けを行う新法案を、今開かれている通常国会に提出する予定だと報道されました。

私たち自身も積極的にネットを活用して取り組みを

 こうした法規制と同時に、私達自身もインターネット上での人権活動を、いっそう強化していかねばなりません。差別煽動者が先行している現在、一つの差別落書きが連鎖的に次の差別落書きを誘発している状況にあります。実社会と同様に、それらの差別行為が許されない社会悪だという理念を普及していくために、部落解放運動や様々な人権運動に取り組んでいる人々が、もっとインターネットに進出して、インターネット上でも多様な人権活動が展開されるようにならなければ、根本的には解決しないのではないかと考えています。
 インターネットはIT(情報通信)革命の代表的存在として宣伝され、経済のグローバル化、「市場原理優先主義」の弊害とダブって見えるイメージを持たれている人も見受けられます。どこまでも「市場優先」「競争原理」をもちこんで、人々の心を荒廃させたり生活を破壊することに対しては、社会的弱者の保護・教育や就職の機会均等・環境の保全といった解放運動が培ってきた思想を大切にして、これと闘わなければなりませんが、ITそのものは医療や福祉の充実、障害者にとって便利な道具として活用でき、市民運動にとっても有効な道具として活用できるなど優れた点もあります。
 私が98年1月より、インターネット上で人権活動に取り組みだしてから、掲示板においては毎日活発な論議が交わされていますし、メールマガジン「週刊人権ステーション」の購読者も数千の単位まで広がってきました。さらに、私宛に様々な人権問題に悩む人々から相談のメールを、たくさんいただくようになりました。結婚差別に悩み苦しんでいる若い女性からのメールもあり、できる限りの支援をしているところであります。また、教育関係者からも私のホームページを教材に取り入れさせてほしいという相談や、大学生から小学校6年生まで「同和」教育や部落問題の疑問について質問や意見がたくさん届きます。たった一人の運動であっても、インターネットは想像以上の広がりと深さを生み出し、相当な手応えを感じているところです。
 今後は、部落解放運動の活動者の多くがインターネット上での人権活動にも取り組まれ、まさに無数のネットワークが張りめぐらされることによって、インターネット上でも人権文化が根付いて大輪の花を咲かせることを願っています。

(終わり)


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