東京都の有効求人倍率は2018年に1・71倍とピークを迎えた後、感染症拡大の影響を受け一時的に低下したが、2020年以降から回復傾向となり2023年3月には1・78倍となり、全国平均(1・31倍)を大きく上回る水準となった。また、1倍を下回っていた正社員有効求人倍率も1・18倍となり、昨年に引き続き企業の採用活動が復調してきている事がうかがえる。
しかしこの間、事業所の採用選考において、エントリーシート(企業独自の応募用紙)で応募者の本籍地や出身地、民族、宗教などに関する情報を求めたり、面接で親の職業など、本人の能力と適正とは関係のない事柄を聞いたりする事象が後を絶たない。
東京都では毎年約100件、こうした「差別につながるおそれがある事象」が報告されている。「本人の能力と適正に基づいた採用基準」からかけ離れた「採用選考に必要のない個人情報」を収集することは部落差別にもつながるものであり、断じて許すことはできない。
また、この「差別につながるおそれがある事象」の件数は高校の受験結果報告書によるものが多数を占めており、大学等の「おそれ事象」は少数となっていることから、大学等卒の採用選考における「おそれ事象」のさらなる実態把握、通報先の周知徹底が重要である。
ネットが普及し、情報化の進展に伴って新たな問題も発生してきている。採用選考でのAI活用やSNS・裏アカウント調査などの問題が表面化してきており、これまでの公正採用選考の考え方の周知・啓発が追いついていない現状にある。ネットが普及した現代に対応する対策や啓発などが重要である。
1998年の差別身元調査事件発覚後、東京都は2000年から毎年6月を「就職差別解消推進月間」として広く企業や都民に対して啓発事業に取り組んできた。2019年から行われている就職差別解消シンポジウムもその一環だ。都連も参画してきた就職差別撤廃東京集会実行委員会は、2020年を節目に就職差別撤廃東京実行委員会と名称を変更し、この就職差別解消シンポジウムの特別賛同団体として協力している。
今年度は6月5日(水)、文京シビックホール大ホールで「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の視点からLGBTの採用選考と就労を考える」をテーマに、定員1400名の規模で開催される。基調講演を炭谷茂・就職差別撤廃東京実行委員会委員長が行ない、記念講演を星賢人・株式会社JobRainbow代表取締役CEOが行なう。
主催である東京都と東京労働局は、広範な周知をおこなうと共に、シンポジウムでは企業向けチラシ「採用選考を行う企業のみなさまへ」と求職者向けチラシ「公正な採用選考に向けて 就職活動中のみなさま」の配布も行なう。また、6月1日からは東京動画やWEB広告で「現在と過去の面接風景を対比させ、就職差別に繋がる質問が今なお残っていることを描きながら、面接官となる方が就職差別に繋がるおそれのある質問への気づきを促す動画」の配信も計画している。就職差別撤廃と公正な採用選考の実現のために、こうした取り組みと協働していくことが重要だ。