東京都の有効求人倍率は2018年に1・71倍とピークを迎えた後、感染症拡大の影響を受け一時的に低下したが、2020年以降から回復傾向となり2023年3月には1・77倍となり、全国平均(1・34倍)を大きく上回る水準となった。また、1倍を下回っていた正社員有効求人倍率も1・16倍となり、企業の採用活動が復調してきている事がうかがえる。
しかしこの間、事業所の採用選考において、エントリーシート(企業独自の応募用紙)で応募者の本籍地や出身地、民族、宗教などに関する情報を求めたり、面接で親の職業など、本人の能力と適正とは関係のない事柄を聞いたりする事象が後を絶たない。東京都では毎年約100件、こうした差別につながる恐れがある事象が報告されている。「本人の能力と適正に基づいた採用基準」からかけ離れた「採用選考に必要のない個人情報」を収集することは部落差別にもつながるものであり、断じて許すことはできない。
2022年10月、職業安定法が改正された。1つ目のポイントは、①「募集情報等提供」の定義を拡大して、求人メディア以外の雇用仲介業者を法的に位置づけた。②募集情報等提供事業をおこなう者を届出制とし、事業概況報告書の提出を求めることで実態が把握できるようになった。③官民連携の主体として位置づけ、相互協力を規定した。これまでの職業安定法に規定のない新しい多様なサービスを含ませ、より透明感を持たせた形だ。
2つ目のポイントは、①募集情報等について的確表示(虚偽又は誤解を生じさせる表示を禁止し、最新かつ正確な内容に保つための措置を講じること)を義務付け②迅速・適切な苦情処理を義務付け③個人情報の保護や秘密保持を義務付け④法令違反に対する改善命令等を可能とする。つまり、募集情報等提供事業者(求人メディアや求人情報誌等により求人情報を提供するサービスをおこなう事業者のこと)が従うべきルールが整備され、情報取り扱いに関するトラブルが発生した場合、募集情報等提供に対して従来の助言・指導に加えて改善命令等を行政がおこなえるようになった。さらに違反した場合には、罰則が適用される点など評価できる内容だ。公正な採用選考の実現のため、採用選考における、差別につながる恐れがある事象に対しても、これまで以上に事実確認、是正指導あるいは改善命令、さらには罰則の適用をおこなうよう求めていかなければならない。
1998年の差別身元調査事件発覚後、東京都は2000年から毎年6月を「就職差別解消推進月間」として啓発事業に取り組んできた。2019年からおこなわれている就職差別解消シンポジウムもその一環だ。今年度は6月7日(水)、板橋区立文化会館で「ネットエントリー・オンライン面接から公正採用を考える~求める人財と出会うために~」をテーマに開催される。感染症による行動規制が緩和され、従来通りの規模でおこなわれる予定だ。主催である東京都と東京労働局は、広範な周知をおこなうと共に、「就職差別解消促進月間」賛同団体への登録を呼びかけている。また、6月1日から「その質問、大丈夫ですか?」と題した15秒のWEB広告動画の配信も計画している。就職差別撤廃と公正な採用選考の実現のために、こうした取り組みと協働していくことが重要だ。