主張

就職差別解消促進月間と公正採用選考の確立
企業と求職者の双方が正しい認識を



 1998年の差別身元調査事件発覚後、東京都は2000年から毎年6月を「就職差別解消促進月間」として啓発事業に取り組んできた。2019年から行なわれている就職差別解消シンポジウムもその一環である。

 今年度は6月8日に練馬区立練馬文化センター・こぶしホールで「採用選考におけるハラスメントの現状と課題 企業に求められる対応とは」をテーマに開催される。

 主催は東京都と東京労働局であるが、東京都連も参加している就職差別撤廃東京実行委員会も特別賛同団体としてシンポジウムに協力しており、実行委員会の炭谷委員長が「最近の人権を巡る状況」と題して基調講演を行なう。

 今年度も感染症の収束が見えない中での開催となるため、定員を大幅に減らしての開催となるが、参加者の安全と安心を守りつつ、公正採用選考の実現に向けた取り組みの前進を検討したうえでの決定である。

 一方で、こうした時だからこそ、インターネットや動画などを活用して、より多くの雇用主や公正採用選考人権啓発推進員に向けた、公正採用選考の情報を周知していく工夫が必要である。

 今現在も、採用選考時にエントリーシート(企業独自の応募用紙)や面接で「親の職業」や「本籍・出生地」などの就職差別につながる違法な情報収集が行なわれており、東京では毎年100件前後の通報がある。また、こういった「本人の能力と適正に基づいた採用基準」からかけ離れた「採用選考に必要のない個人情報」を収集することは部落差別にもつながるものであり、断じて許すことはできない。

 ハローワークは違反の通報があった企業に対して事実確認と是正指導を行なっている。是正指導に応じない企業に対しては職業安定法違反で「罰則(6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)」が適用されることもあるが、違反する企業は後を絶たない。

 企業が部落差別や就職差別をなくすために公正採用選考に取り組むことは、企業価値を高めるとともに、職業安定法上においても重要な責任の一つである。

 そのために、企業が採用選考時の説明会や面接の際に「我が社はCSR(企業の社会的責任)を尊重し、採用時の法令遵守を約束する企業として、応募者の能力と適正に関わるもの以外の就職差別につながる違法な個人情報の収集はしない」ことを宣言し、「ハローワークが発行している公正採用選考のリーフレットや厚生労働省が制作した公正採用選考を解説する5分動画を見てください」と説明することが重要である。これは、企業と求職者の双方が公正採用選考に対する認識を深め、就職差別につながる違法な個人情報の収集をなくすための効果的な取り組みである。

 東京では東京都と東京労働局が中心となり、このような「採用選考時における公正採用選考の周知」の取り組みが推奨されている。

 東京都産業労働局は毎年、企業向け啓発冊子「採用と人権」を作成し、都内における従業員30人以上の企業、約3万7千社に対して配布しており、配布時の添え状でもこの取り組みを推奨している。この取り組みは、就職差別の撤廃と公正採用選考の確立に向けた基礎となっている。

 また、東京人権啓発企業連絡会などの民間企業においても行政の推奨に応え、「採用選考時の公正採用選考の周知」の取り組みが採用選考時の説明会や面接で推進されている。

 企業側だけではなく求職者側への働き掛けも重要であり、学校などの教育機関においても、授業などで生徒たちに公正採用選考についての説明や、公正採用選考が守られていない企業の面接で違反質問などがあった場合における通報先を周知することも大切である。

 企業と求職者の双方が正しい公正採用選考の認識を持つことが、部落差別や就職差別をなくすことにつながっていく。

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