「なくそう就職差別、問われる企業と社会の人権感覚」とのテーマで行われる予定だった2020年度「就職差別解消促進月間」行事である就職差別解消シンポジウム(6月10日新宿文化センター)が開催中止となった。主催は東京都と東京労働局だが、私たちは就職差別撤廃東京実行委員会は特別賛同団体としてこの集会に協力した。中止は残念であるが、ウィルスとの戦いの中で人命と参加者の安全・安心を考えれば当然の対応である。
東京では東京労働局や東京都が中心となって企業に「採用時の公正採用選考の周知」が推奨されている。就職差別の撤廃・公正採用選考の確立に向けた最重要課題である。企業が採用時に「我が社はCSRと法令を遵守する会社ですから、採用時に大臣指針に定められた14項目の個人情報を聞くことはありません。安心して採用面接に臨んでください。」と一言、就活生に言い添えるだけで公正採用選考への関心や理解が一挙に高まる。また、理解の全くない就活生に対しては、厚労省の就労支援室が製作した5分間の公正採用選考の動画の視聴を勧めるだけで理解を得ることができる。
1998年の差別身元調査事件が発覚して、2000年から東京都は6月を毎年「就職差別解消促進月間」として啓発事業が取り組まれてきた。当時、推進員を置く都内の企業は1万2千社だった。当時、この推進員を置く企業に公正採用選考を周知することが最大の課題だった。現在推進員を置くことを厚労省から勧奨されている都内の50人以上の企業は2万6千社ある。こうした企業が採用時の公正採用選考の周知を行なうようになることが重要である。しかし、月間行事の就職差別解消シンポジウムの参加者は1400〜1800人である。その裾野を広げていくためにより多くの雇用主や推進員にネットや動画を活用して情報を届ける工夫が必要である。
もう一つの重要課題は雇用主研修や都民啓発における部落認識の刷新である。私たち部落出身者に対する就職差別をなくすためには公正採用選考を周知するだけでは不十分で、私たち部落出身者が祖先や自身の部落理解の中で自己肯定感や自尊感情を持てる事実や史実に基づいた部落認識が不可欠である。この50年以上、行政や企業の研修・啓発の部落認識の下敷きは「同対審答申」の「同和問題の本質」であった。その内容は「部落低位論」である。折角2016年に「推進法」ができて地域事業を中心に教育啓発を推進しようとしても「部落低位論」では部落差別を助長してしまう。だからこそ部落認識の刷新が必要なのだ。戦国から江戸時代にかけて私たちの祖先は領主や家臣の命を守る甲冑の小札として使われる軽量で強度に優れた皮革素材を提供する最先端の職人、皮役として取り立てられた。その家畜の利用技術は、私たちの現代の暮らしや文化に欠かせないものとして社会に根づき発展している。差別された人々の部落史から当たり前の皮革を生産する職人、その人と歴史、過去と現在を結ぶ社会的役割への理解へと転換することが必要である。部落差別をなくすために差別者の歪んだ部落理解を一新し、企業者への行政研修・啓発の内容を工夫し、皮革生産への当たり前の理解を醸成していこう。