狭山事件は事件発生から57年が経過した。2006年5月に第三次再審が申し立てられ全国各地での闘いが進められる中、2009年12月に当時の門野裁判長から証拠開示勧告が発せられ、狭山は大きく動き出した。狭山弁護団は検察官から開示させてきた191点におよぶ証拠物の科学的分析から、現時点までに225点もの石川無実を明確に証明する新証拠を裁判所に提出している。誤った判決を維持することが司法の正義ではない。確定判決に合理的疑いが生じているならば、再審を開始することこそが裁判所の使命であり、司法の正義である。
狭山事件の確定有罪判決(1974年10月31日、2審・東京高裁・寺尾正二裁判長)は有罪の根拠として、脅迫状と筆跡が一致する、身代金受け渡し現場の足跡が石川さんの家の地下足袋と一致する、死体を埋めるために使われたスコップはI養豚場のもので石川さんが盗んで使った、犯人の血液型はB型で石川さんと一致する、犯人の音声や目撃に関わる証言がある、犯行に使われた手拭いは石川さんの家のもの、などといった7つの客観的な証拠が石川さんと犯行との結びつきを示すものだとしている。 そのうえで、カバン、万年筆、腕時計など、被害者の所持品が自白通りに発見されたことを「秘密の暴露」(犯人しか知らないことが自白で判明した)として自白を信用できる根拠としてあげ、さらに、自白は客観的事実と矛盾しておらず信用できる、としている。
確定有罪判決の根拠は完全崩壊
第三次再審段階で弁護団が提出した225点におよぶ新証拠によって、石川さんの無実は明白だ。中でも、コンピュータを駆使した筆跡鑑定によって石川さんが脅迫状を書いていないことを科学的に明らかにした福江鑑定、取調べ録音テープの分析もふまえて石川さんに脅迫状は書けなかったことを明らかにした森鑑定、取調べ録音テープにもとづく心理学分析により虚偽自白のでっち上げ過程を明らかにした浜田鑑定、石川さん宅から発見された被害者のものとされる万年筆はニセ物であることを証明した下山第1鑑定、インクの構成元素からニセ物であることを100%証明し、証拠のねつ造までも明示した下山第2鑑定などによって、45年前の確定有罪判決の根拠は完全に崩れている。
事実調べを求める声を裁判長に集中しよう!
再審の要件である確定判決に合理的疑いが生じる新証拠が次々と出されているにもかかわらず、事実調べ実施に踏み切らない東京高裁第4刑事部・後藤眞理子裁判長、および、新証拠への愚にもつかぬ反証で裁判の引き伸ばしを図っているともとれる検察官との攻防が続いている。今年81歳になった石川一雄さんは、第三次再審の闘いが最後の闘い、次はないと言い切り、命をかけて全国各地を駆け回り、「事実調べさえ行なわれれば、私の無実は明々白々となる」と事実調べ実施を訴え続けている。狭山弁護団は、確定判決の主軸が完全に崩壊状態となった状況を冷静に判断し、事実調べを要求する具体的な準備を進めている。いま、私たちの闘いの合言葉は「事実調べなくして、再審なし!」であり、東京高裁第4刑事部・後藤眞理子裁判長に鑑定人尋問をはじめとする事実調べを実施させることが突破すべき最重要の関門であることをあらためて確認しよう。
「万年筆」で石川さんが殺人犯にでっち上げられたのであるならば、「万年筆」で裁判所に斬り込み、新旧証拠の総合的判断を迫り再審開始を勝ち取ろう。狭山東京実行委員会が呼びかけ、取り組みが進められている要請ハガキ運動を地域・職場でさらに拡大し、下山進(吉備国際大学名誉教授)鑑定人への鑑定人尋問を求める声を後藤裁判長に集中していこう。