主張

一刻も早く鑑定人尋問を実施させ
再審開始決定を勝ち取ろう!



 1963年5月1日、埼玉県狭山市で発生した女子高生誘拐殺害事件=狭山事件において、石川一雄さんが犯人にでっち上げられてから56年が経過した。80歳になってしまった石川さんは、不当逮捕から56年目の今年5月23日の集会アピールで、「狭山には司法は今も治外法権 光覗けど皆に警鐘」という歌を詠み、未だわが身を解放しない司法への怒りをあらわに、数々の科学的鑑定が無実を証明しているけれども、勝利の日まで緊張を解かぬよう自らを戒めるとの決意を表明し、第三次再審で決着をつける、と宣言した。この思いをしっかりと受け止め、何としても第三次で再審を開始させなければならない。

 現在、第三次の再審審理は大詰めを迎えている。弁護団は、検察官に開示させてきた数々の証拠を科学的に分析し、2006年に申し立てた第三次再審請求以降だけでも221点におよぶ石川さんの無実を証明する新証拠が裁判所に提出され、確定判決における有罪の根拠は完全に崩れている。

 犯人が残した唯一の物証である脅迫状は、石川さんが身代金を目的に書き、数ヵ所の訂正もおこない被害者宅へ届けたとされている。持ち歩いていたとする石川さんの指紋は脅迫状には一つもない。脅迫文は漢字が多用され、文字を書き慣れているものによる文章、筆跡であることが一目瞭然である。差別による貧困ゆえに義務教育すら満足に受けられなかった石川さんには絶対に書けない。昨年1月に提出された福江鑑定(筆跡鑑定)では、コンピュータを使った最新の解析技術が駆使され、99・999‥‥%の識別確率で石川さんが書いたものではない、別人が書いたもの、と証明されている。

 また、確定判決が石川さんを犯人と断定する重要証拠の一つである石川さん宅の鴨居から発見された被害者のものとされる万年筆に関しては、下山第2鑑定は、発見万年筆からは被害者が使用していたインクが全く検出されないことを含有元素から証明し、被害者のものではない、偽物であることを完璧に実証している。そもそも万年筆が置かれていた鴨居は誰でも見える場所。2回の大がかりな家宅捜索(のべ26人、4時間以上)で発見されなかったものが、3回目ではわずか14分で発見された。発見万年筆には石川さんの指紋はおろか被害者の指紋も付いてないない。事件当時、家宅捜索に従事した警察官らは、「(捜索時に)鴨居に手を入れて調べたがなかった」「あとから万年筆が発見されたと聞いて不思議に思った」と証言している。再審の要件である「確定判決に合理的疑い」どころか、明確な疑い、証拠のねつ造までもが明らかにされている今、東京高裁第4刑事部・後藤眞理子裁判長は即刻再審を開始しなければならない。

 石川さんは何故えん罪に陥れられたのか?「あんな犯行をやるのは部落に違いない」という事件発生とともに住民が口々に発していた部落に対する差別意識を最大限に利用して、警察は石川さんを犯人に仕立て上げていった。主要メディアは石川さんのことを「常識外の異常性格」「乱暴者の土工石川」「犯罪の温床四丁目部落」などと人格攻撃、差別扇動を展開した。石川さんは被差別部落への差別意識、予断と偏見による集中見込み捜査、別件逮捕、証拠のねつ造、過酷な取り調べにより虚偽の自白を強要され無実の獄につながれてしまったのである。このことを私たちは何度も確認しよう。

 後藤眞理子裁判長は、狭山事件の捜査の過程や取り調べの問題をきちんと捉えた上で、有罪判決が根拠とした警察の鑑定や物証の発見経過に疑問がないのかを検証すべきである。そのためには事実調べが絶対に必要である。

 当面する最重要課題は、確定判決以後一度も行われていない事実調べの実施である。事実調べが実施されない再審裁判は、必ず棄却されているという事実を直視し、現在、狭山東京実行委員会が総力をあげて展開している裁判長に対する事実調べを要請するハガキ運動や署名運動のさらなる拡大強化、地域や職場での学習会や集会の開催などの取り組みの強化を図っていこう。

 先般、大崎事件の第三次再審請求では、地裁、高裁の再審開始決定を取り消し、事実調べも行うことなく再審請求を棄却する不当極まりない決定が出された。また、東京高裁第4刑事部・後藤眞理子裁判長は、鑑定人尋問を行うことなく三鷹事件の再審請求を棄却するなど、再審をめぐる厳しい状況が続いている。

 一切の楽観、油断を排し、地域・職場からの粘り強い闘いと盤石な態勢をもって、確定有罪判決(寺尾差別判決)から45年を迎える10月31日に日比谷野音で開催される「狭山事件の再審を求める市民集会」の大成功から一大世論を巻き起こしていこう。そして、後藤眞理子裁判長の任期中に、何としても証人・鑑定人尋問などの事実調べを行わせ、再審の門を打ち破ろう!

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