主張

後藤裁判長は事実調べを行ない
 すみやかに再審開始を



 部落差別にもとづく冤罪・狭山事件は、事件発生から55年、東京高裁へ第三次再審を申し立ててからすでに12年が経過し、不当な有罪判決(2審 東京高裁・寺尾裁判長)から44年になろうとしている。

 1963年5月1日、埼玉県狭山市で起きた女子高生誘拐殺害事件=狭山事件。犯人を取り逃がす大失態を演じ、捜査に行き詰まった警察は「学力が低く、身代金20万円を大金とし、こんな残忍な犯罪を犯すのは部落民に違いない」といった地域住民の予断と偏見、マスコミの差別宣伝を巧みに利用した。そして、被差別部落への集中見込み捜査から当時24歳であった被差別部落民・石川一雄さんを別件で逮捕し、一ヵ月にわたる拷問のような取り調べでウソの自白をさせ犯人にでっち上げた。石川さんは、現在79歳。見えない手錠を架せられたまま半世紀以上無実を訴え続けている。

続々と新証拠
確定判決は完全に崩壊

 狭山事件の再審審理は大きく動き出している。第三次再審請求(2006年)以降だけでも217点もの石川さんの無実を証明する新証拠が裁判所に提出され、多くの国民が注視する中で審理は大詰めを迎えている。

 確定有罪判決は、被害者の万年筆が石川さんの自白通りに石川さん宅から発見されたとして、これを「秘密の暴露」(犯人しか知らない事実が自白によって判明した)と認定し、自白が真実で、石川さんが犯人であることを示す決定的証拠とした。

 狭山弁護団は、事件当時の科警研によるインク鑑定を精査し、発見万年筆に被害者が使用していたインクが入っていなかったことを指摘した下山第1鑑定を2016年8月に提出し、発見万年筆は被害者のものではない、偽物であるということを証明した。2016年12月には、開示された取調べ録音テープの筆記場面の分析もふまえて、当時の石川さんが非識字者であり、脅迫状を書いていないことを明らかにした森鑑定、魚住鑑定を裁判所に提出。2017年1月には、発見万年筆が脅迫状の訂正に使われた万年筆ではないことを明らかにした川窪鑑定を提出し、下山鑑定とあわせて発見万年筆が事件とはまったく関係のないものであることを明らかにした。

 さらに、今年の1月15日に提出された福江鑑定は、人間の勘や経験を頼りにしたこれまでの筆跡鑑定とはまったく違った、コンピュータによる最新技術を駆使して科学的な筆跡鑑定を行い、99.999……%(限りなく100%に近い近似値的数値)の識別確率で「別人が書いたものである」と結論づけた。

 そして8月30日には下山第2鑑定が提出され、インクの構成元素の分析によっても、発見万年筆からは被害者が使っていたインクの元素(クロム)が検出されなかった=発見万年筆は100%被害者のものではないことが科学的に証明された。裁判で認定されていた憶測・推測にによる「インク補充説」、石川さんを有罪とするための「秘密の暴露」が完全に覆された。

 これらの新証拠によって、確定判決・有罪証拠の主軸は完全に崩れ、証拠の捏造までもが明らかにされている。

一人一人の声を集め
再審の門をひらこう

 事件発生から55年が経過した狭山事件の再審審理をこれ以上引き延ばすことは許されない。裁判所の責務は、公正・公平な審理を尽くすことであって、決して誤った確定判決を維持することではない。東京高裁・後藤眞理子裁判長は、有罪証拠の主軸が完全に崩壊し、確定判決に合理的疑いが明確に生じ、証拠のねつ造までもが明らかにされているいま、即刻、証人・鑑定人尋問などの事実調べを行い、再審を開始しなければならない。

 狭山再審の闘いはまさに最大の山場を迎えている。来たる10月31日に13時日比谷野外音楽堂において開催される「狭山事件の再審を求める市民集会」に再審開始を求める一人一人の声を集め、再審の門を突破し、一日も早く石川さんを取り戻そう。

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