部落差別にもとづく冤罪・狭山事件は、事件発生から54年が経過した。女子高校生誘拐殺害事件の犯人にでっち上げられてしまった石川一雄さんは、半世紀以上無実を叫び続け、「第三次再審が最後の闘い」との決意で再審開始を訴え続けている。
2009年から開始された三者協議が現在までに33回行われる中、191点もの無実を証明する新証拠が次々と裁判所に提出され、有罪確定判決の主軸はすべて崩壊している。有罪の根拠とされた証拠、真犯人しか知り得ない事実の自白「秘密の暴露」は、まさに石川さんが犯人ではないことの証明となり、そればかりか、証拠のねつ造の疑いまでが大きく浮上している。石川さんの無実が明々白々となっているにもかかわらず、検察官は重要証拠の開示を頑なに拒み、裁判所は二審以降40年以上一度も事実調べを行わない不公正な裁判が維持され続けている。
脅迫状を書いたのは石川さんではない
狭山事件で犯人が残した唯一の物証は「脅迫状」である。この脅迫状からは、石川さんの指紋は一切検出されていない。そして、部落差別による貧しさからほとんど学校に行けなかった石川さんは、事件当時、文字を書いたり文章を作ったりする能力がほとんどなかった。事件から47年目にして開示された石川さんが逮捕当日に書かされた「上申書」や2010年に開示された取調べ録音の筆記場面の分析から、当時の石川さんの読み書き能力では絶対に脅迫状を書くことはできないという鑑定書が出されている。脅迫状・封筒の状況、筆跡、書字能力、国語能力から、石川さんが犯人でないことは明らかだ
発見万年筆は被害者のものではなく、証拠のねつ造だった
重要証拠である石川さんの自宅から発見された被害者のものとされる「万年筆」が偽物であったことを証明する鑑定書が昨年8月裁判所に提出された。発見過程の不自然さ、発見万年筆からは石川さんの指紋どころか被害者の指紋すら検出されていないこと、被害者が事件当日まで使っていたものとは違う色のインクが入っていたことなど、当初からねつ造の疑いが強いと言われてきた証拠物である。これまで裁判所は証拠もないのに「インクを入れ替えた」との推論を維持してきた。しかし下山鑑定は、インクを入れ替えれば元のインクが微量でも検出されるはずだが、それがまったくないということを科学的に実証した決定的とも言える新証拠である。被害者のものではない万年筆がなぜ石川さんの家から発見されたのか、重要証拠にねつ造の疑いが生じているいま、裁判所は早急に鑑定人尋問などの事実調べを行うべきである。
石川さんの思いに応え、全証拠の開示、事実調べを
石川さんは今年の年頭にあたって、以下の歌を詠んだ。
「満月に ベランダいでて 佇めば 月は急いで 雲を駆け抜け」
下山鑑定書が提出され、石川さんは「胸につかえていたものが取れ、外に出てみると強風によって雲が吹き飛ばされ、月が自分を照らしてくれているように感じた。」と言っている。まさに、月の光は狭山の真実、雲は正義を実現しようとしない裁判所、風は全国各地の支援者、風の向きを定め強めたのが下山鑑定だ。
石川さんは「何が何でも犯人をと焦った警察は、憲法の精神を無視し、被差別部落民で無学な私を生贄にすべく別件逮捕し、代用監獄の中で、甘言、脅し等で自白を強要、また、証拠を改ざん・ねつ造したり、隠蔽することによって人権を蹂躙した。私自身、検察官が隠し持っている証拠の開示を強く迫っていくが、中でも、高検以外の証拠物リストの開示や、高裁に下山鑑定書等の鑑定人尋問、事実調べをさせることを強く訴えたい」と訴えている。焦眉の課題は、高検以外の証拠物リスト開示、全証拠開示、そして事実調べの即刻実施である。
確定判決に合理的疑いどころか、明白な無実の新証拠が続々と提出され、証拠の偽造・ねつ造の疑いが浮上しているのであるならば、当然、裁判所は再審制度の理念にもとづき、再審開始を決定しなければならない。
東京都連は、石川さんの思いに応え、再審実現に向けて奮闘する狭山東京実行委員会の旗のもと、地域共闘や労働組合、住民の会や冤罪被害者・支援者など、すべての市民とともに証拠開示の流れを一層推し進め、事実調べ・再審を絶対に勝ち取る。
今こそ狭山を動かそう。二審・東京高裁寺尾判決(確定判決)から43年を迎える10月31日、日比谷野外音楽堂で行われる「狭山事件の再審を求める市民集会」を成功させ、再審の門を打ち破る大きな世論を巻き起こしていこう。