狭山弁護団は8月22日、石川さん宅から発見された万年筆のインクに関連して、下山 進・博士(吉備国際大学前副学長)の鑑定書を提出し、有罪の証拠とされてきた万年筆は、「被害者のものではない」ことを科学的に明らかにした。 この決定的な新証拠により狭山第三次再審の闘いは重大な局面をむかえている。
有罪判決は、石川一雄さんの供述通りに万年筆が見つかったことを「秘密の暴露」(本人しか知り得ない事実)とし、最重要の有罪証拠としていた。弁護団は、1次・2次再審請求でも万年筆は被害者のものではないと主張してきた。裁判所はインクについて被害者が使っていたものとは違うと認めたが「別のインクを補充した可能性がある」と退けていた。石川さん宅からみつかった万年筆は、のべ26人のベテラン刑事による二回の家宅捜索で発見されなかったが、三回目のわずか数分の捜索で誰もが見える勝手口の鴨居の上から発見された。しかも、発見万年筆からは被害者の指紋も石川さんの指紋も付着していない不可解な証拠物。捜索責任者であった元警部や捜査官らが「間違いなく鴨居を捜したが万年筆はなかった」「重大な事件だったので、そのことを言えなかった。求められればいつでも証言をする」と弁護団に答えている。
石川さんを起訴後、科学警察研究所の荏原技官による第一鑑定では、万年筆のインクは被害者が使っていたインクとは異なるという鑑定結果が出ていた。しかし、この鑑定は証拠として調べられず有罪判決が下されてしまった。
第三次再審段階で証拠開示勧告が出され、被害者が使っていたインクの瓶が証拠開示されたことで弁護団は調査を進めてきた。
下山鑑定人は、実証的に荏原鑑定を精査・検証し、石川さん宅から発見された万年筆には、被害者が使っていたジェットブルーインクは微量も混じっておらず、発見万年筆に入っていたブルーブラックのみであったことを科学的に実証した。つまり、発見された万年筆は被害者のものではないこと、誰かがねつ造したものであることを明らかにした。下山鑑定は、当時の科警研の検査結果という動かせない事実から、証拠万年筆に被害者のインクの痕跡がないことを明らかにした。すなわち検察側の資料そのものが新証拠になっている点において確定有罪判決を突き崩す決定的な新証拠である。
第三次再審請求以後だけでも石川さんの無実を証明する184点もの新証拠を弁護団は提出している。そして、有罪確定判決の主軸が完全に崩壊している今、狭山の審理に多くの国民が注目している。下山鑑定による万年筆のでっち上げの暴露で、狭山第三次再審の審理、再審の闘いは大詰めをむかえた。東京高裁はすみやかに下山鑑定人をはじめとする鑑定人尋問や、犯行同時刻に現場とされる雑木林から至近距離で農作業をしていて「悲鳴も聞かなかった、人影もなかった、そこで殺人があったなんて信じられない」と証言しているOさんの証人尋問などの事実調べを早急におこなうべきである。確定判決理由に合理的疑いが明確に生じ、のみならず数々の証拠のねつ造までが明らかになっているならば、「無辜の救済」という再審制度の理念に則り、再審を開始することこそ司法の社会的使命である。
石川一雄さんは77歳になってしまった。一刻の猶予も許されない。検察が隠し持つ全証拠を開示させ、証人・鑑定人尋問や現場検証などの事実調べを即刻実施させる国民世論が今ほど必要な時はない。
10月28日、日比谷野外音楽堂において、冤罪53年、寺尾差別判決42ヵ年を糾弾し、再審開始を求める市民集会が開催される。多くの市民の世論結集を図ろう。
命をかけて無実を訴え続ける石川さんの闘志に応え、私たち解放同盟東京都蓮・各支部同盟員は一丸となって、血の一滴が枯れるまで闘う決意である。