主張

あらゆる差別の撤廃を目的にした総合的な人権条例を



 東京都は2018年6月4日、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例(仮称)」の概要案(以下、「条例概要案」)を発表しました。また、パブリックコメントを募集し、その意見等を踏まえ、9月の都議会(昨年度は9月20日から)に「条例案」を提出し、可決されれば即施行するとしています。

 「条例概要案」の「目的」のところでは、①オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念に基づき、あらゆる人がいかなる種類の差別も受けることがなく、人権尊重の理念が広く都民に一層浸透した社会を実現、②性自認や性的指向等を理由とする差別の解消及び不当な差別的言動の解消への取組となっています。そして、「不当な差別的言動の解消への取組」の対象者は「ヘイトスピーチ解消法」で定義している「本邦外出身者」に限定しています。

「条例概要案」の問題点

 「条例概要案」は修正されなければならない原則的な問題が含まれています。その第1は「条例」策定過程で被差別当事者団体の意見を聞いていないことです。「私たちのことを私たち抜きに決めるな」という原則が貫かれていなければなりません。

 第2は「オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念」や「目的」で明記されている「いかなる種類の差別」とは何でしょうか。「条例概要案」では明記されていません。そもそも、それは何かと質問をしなければならないような「条例」は不十分としかいいようがなく、現場に混乱を招きます。

 第3に「あらゆる人がいかなる種類の差別も受けることがなく」といいながら、具体的対策はセクシュアル・マイノリティと本邦外出身者しか対象にしていません。これでは、都民や事業者にとって、重要な人権課題はセクシュアル・マイノリティと本邦外出身者の二つだけだ、他の人権課題は重要ではない。東京都の条例にものっていない、とその他の人権課題が軽視されてしまうという差別の助長につながる重大な問題を含んでいます。

具体的に人権課題を明記すること

 「いかなる種類の差別も受けることがなく」を目的とした条例を東京都が先駆けて制定することには大きな意義があります。しかし、国際人権基準・当事者性・差別の現実を踏まえていないなどの根本的な問題があることを述べてきました。「条例概要案」の大幅な修正が必要であり、パブリックコメントとともに都連は6月20日東京都に要望書を提出しました。

 要望内容は、第1に「目的」「理念」において、国際人権基準を厳守するという姿勢が重要です。その上で、あらゆる差別を許さず禁止すると明確に都内外に宣言すること。

 第2に「オリンピズムの根本原則」に掲げられている「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的出身、財産、その他の身分などの理由によるいかなる種類の差別」かつ「人種差別撤廃条約」や「障害者権利条約」で明記されている「民族的もしくは種族的出身、出生、年齢、障害」に基づく差別、さらに「東京都人権施策推進指針」で明記されている17課題を重点的人権課題として明記すること。

 第3に当事者からのヒアリングを実施すること。また、当事者参画を原則とすること。

 第4にあらゆる差別の撤廃にむけ、基本計画等の確立を定めること。特に、「人種差別撤廃条約」等国際人権基準を踏まえ、差別扇動など差別主義に基づく活動等に対して「犯罪」であると規定し罰則規定を含む規制措置を設けること。

 第5に現在、部落差別撤廃については「条例」もありませんし、「基本計画」もありません。「東京都人権施策推進指針」に一つの人権課題としてあがっているだけであり、「人権プラザ」の移転にも現れている通り決して十分な対策が実施されているわけではありません。部落差別解消推進法を踏まえ、部落差別撤廃を「条例」に明記し、取り組みを本格化すること。

 「人権条例概要案」を修正させ、①国際人権基準の厳守、②差別の現実を踏まえること、③当事者の参画を原則とした「人権条例」を制定させていきましょう。

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