主張

「復刻版」裁判―控訴審闘争に勝利しよう



 「全国部落調査」復刻版出版事件の東京地裁判決(民事第12部成田晋司裁判長)が9月27日にだされた。部落解放同盟が2016年4月19日に提訴して5年になる。

 裁判は、「復刻版 全国部落調査」「部落解放同盟関係人物一覧」の出版やネット公表の禁止、削除を求めたものである。

 判決は、「復刻版 全国部落調査」の25都道府県部分についての出版差止めとネット上でのデータ配布の禁止、当該データの二次利用の禁止と、原告ら(判決時の原告数は235名)の大部分について1人あたり5500円から44000円の損害賠償を認め、基本的に勝訴判決となった。

被差別部落の暴露は違法

 特に、判決は、「復刻版全国部落調査」について、被差別部落の地名のみが記載された一覧表であっても、その公表は身元調査を容易にする行為であり、原告ら個人のプライバシー権・名誉権を侵害する違法な行為となることを認めたことや「部落解放同盟関係人物一覧」のデータ配布を理由とする賠償を認めたことは、基本的に原告の主張を認める内容になっており評価できる。

 行政は、この判決を活かしモニタリング事業の創設などインターネット上の部落差別事件に対する対策を早急に講じるべきであり、また、プロバイダーやSNS事業者も違反事項に被差別部落の地名等の「暴露」の禁止を利用規約などに明文化し、削除対象にすべきである。

「差別されない権利」を切り捨て

 しかし、判決は、憲法14条に由来し、仮処分段階では全ての裁判官が認めた「差別されない権利」に関して「権利の内実は不明確であって、プライバシー等他の権利が侵害されている場合を超えてどのような場合に原告ら主張の権利が侵害されているのか…判然としない」として、その権利性を認めなかった。そして、プライバシーの権利の侵害のみを判断基準とし、しかも、プライバシーの権利侵害の判断についても「自己情報のコントロール権」を認めず、またカミングアウトとアウティングも区別せず、プライバシー権に関する極めて狭い理解に基づいているところから重大な欠陥を生むことになった。

「部落差別」の無理解

 判決は、原告すべてが部落差別の対象になるにもかかわらず、一部の原告に対して、プライバシー権の侵害を認めなかった。そこから、「復刻版 全国部落調査」の出版等の差止めについて、「復刻版 全国部落調査」全体の差止めを認めず、権利侵害を認定した原告が存在する都道府県のみを差止めの対象とした。これは、最も問題である。判決はその前段で日本に残る根強い部落差別について詳論しているにもかかわらず、一部都道府県を差止めの範囲から除外する判断を行ったことは、結果的に裁判所が「復刻版 全国部落調査」の発行に手を貸したと判断される行為であり、強く非難されるべきである。「復刻版 全国部落調査」は身元調査、部落調査に利用される「被差別部落の一覧表」であり、その全ての記載の差止めが認められなければならない。

闘いの場は「控訴審」に

 このように判決には重大な欠陥が存在している。原告団・弁護団はその欠陥を是正させるべく控訴した。今後は、控訴審が闘いの場となる。

 また、「差別されない権利」が司法において認められたり(仮処分決定)、認められなかったり(東京地裁判決)する背景の一つには、差別を禁止し撤廃する体系的な法が整備されていないという事情がある。国際人権基準に合致した差別禁止法と政府から独立した人権委員会の設置が求められている。

 法制定を展望しながら「差別されない権利」を認めさせ「復刻版」裁判―控訴審闘争に勝利しよう。

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