■INDEX > 人権相談
新たなコミュニティの創出を
共に支え合う人権のまちづく
公益財団法人 東京都人権啓発センター 人権相談員 牧坂秀敏
●ささやかな希望の砦に
人権プラザで、「寄り添い、共に考える」「分かち合う」ことを基本に据えた人権相談活動がはじまって早いもので3年目になる。部落差別をはじめとしたさまざまな人権問題で悩んだり、苦しんだりしている人たちが、笑顔を取り戻し、あらたに生きる希望をつなげる、そんな頼れるささやかな砦でありたいと念じてやってきた。
他者には言えない悩み・苦しみを抱えながら生きてきて、人権相談の扉を叩く。あるいは、さまざまな関係機関に訴えてもたらい回しにされたり、取り合ってもらえなかったりして、一縷の望みをかけて受話器をにぎる。
また、露骨な部落差別による人権侵害でどこにも相談できずに駆け込んでくる被差別部落出身者もいる。
いずれも電話相談からスタートして、面談や出張相談で詳しく話を聞き、問題解決にむけてどういう対応が可能なのかを当事者と一緒になって考えていく。
医療や介護、雇用保険(失業)など生活に関わる相談では、求められていることが明快なので、法制度など必要な情報を提供したり、どのような対応をすればいいのかアドバイスしたり、関係機関を紹介したり、必要とあれば、同行することもある。
●孤立からの脱却、生活が変わる!
一つの事例を紹介する。二番目のケースに当たるものだが、電話相談から出前相談へ、そして継続的な関わりをとおして、少なくとも孤立から脱却してきた好例といえる。
家庭内暴力(DV)の被害者で、心の病を患い、生活保護を受けながら子どもと二人で暮らしている女性。
自分が住みたいところへの転居を希望しても、生活保護の担当者=ケースワーカーをはじめ、いろんなところへ訴えても門前払い、八方塞がりのなかで、「弱い人の立場に立って相談に応じてくれると聞きました」と電話があった。
彼女の訴えを当然の権利として受け止め、ケースワーカーとの話に臨み、これからの生活を彼女自身が納得いく形で決めていく。
それから一年半が経ち、出張相談で訪問したときに、「どこに訴えてもまともに取り合ってもらえませんでした。そんな私がいちばんつらかったときに、いろいろと相談に乗ってくれてありがとうございました。あのときがあったから、今があるんです。ほんとに感謝しています」とはにかんだ表情で言われた。
相談相手がSOSを発信しているときに、それを真正面から受け止めて寄り添いながら、問題の解決にあたる姿勢がいかに大切であるかを、この一言が如実に物語っている。
それが相談者の折れかけた心を支える。社会的に孤立した状態におかれたとき、「私のことを受け止めてくれる人がいる」というのは、どんなに心強いことか。自分が相手の立場になってみると、よくわかる。
心の安定は、彼女の生活にも好影響を及ぼしている。以前は、朝起きることもできず、食事も作れない状態であった。ところが、いまや、朝はきちんと起きて、洗濯もでき、食事も作れるようになった。病状が悪化しないようにできるだけ家に引きこもらず、ホッとできる居場所をつくろうとしている。
出張相談の折に、かいま見た生気のある表情や部屋の様子からも、その変化を読み取ることができた。
●生き難い時代をともに支え抜く
とはいえ、「引きこもり」などの相談では、一向に先行きがみえない。家族としては、いろんなアプローチを試みてはいるが、なかなか当事者の現状を変えるところまでいかない。社会的なサポートがあるにはあるが、そこまでつながらないのだ。一歩を踏み出すきっかけを模索している。
社会的な困難を抱えながら生きている人たちに寄り添い、彼(彼女)らが自立して生きていけるようにサポートしていくことが、格差・貧困の拡大、自殺の増加、餓死・孤立死といった生き難い時代状況のなかで、いかに重要であるかを痛感している。
また、人権プラザに我々の相談窓口があることの意義をあらためて共有したい。部落差別に直面した被差別部落出身者が、「きちんと相談ができる、東京でも駆け込めるところがある」と、いわば部落のなかまの「ほっとステーション」の役割を部落解放同盟東京都連と連携して担いたい。
さらに、昨今の生活保護制度とその利用者全体に対するバッシングにみられるように、生活保護の利用をためらわせる動きが強まろうとするなかで、セーフティネットにつなぐためのきめこまかな相談活動がより一層求められる。
一方、高齢化がすすむなかで、「介護問題」はだれにとっても焦眉の課題であるが、案外と制度などが知られていない。明日は我が身である。少なくとも、介護保険制度のしくみや利用の仕方などは知っておきたい。
また、介護のことで困ったりしたら、住んでいる地域で身近な相談窓口として設置されている「地域包括支援センター」などの活用をすすめたい。これは、区ないしは、区が委託した法人が運営していて、相談は無料である。保健師などの専門的スタッフが介護・医療・福祉にわたり必要に応じた支援を行う。ただし、十分にその機能を発揮できていないと思われるときは、相談いただきたい。
「生きていてよかった」といえる人と人のかかわりを強め、共に支え合う人権のまちづくり、新たなコミュニティの創出を手掛けていくこと抜きには、明るい未来は切り拓けない。
|