新型コロナウィルス(以下コロナ)感染拡大防止により、外出自粛が長引くなか、家庭内でのDVや児童虐待が発生しやすくなるのではないかという懸念が高まっています。それは国内だけの問題ではなく世界的に危機的状況であるということは、国連のグテーレス事務総長の「経済的・社会的な圧力と恐怖が増大し、家庭内暴力が世界規模で恐ろしいほど急増するのを目の当たりにしてきた」と指摘し、各国に対応を取るよう促したメッセージからも明らかです。
コロナ感染拡大に伴う外出制限により、女性へのDV(ドメスティック・バイオレンス)が欧州やアジアでは3割増加したとも、6割増加したとも報じられています。コロナの陰に隠れたDVの「パンデミック(世界的大流行)」が起きているとも言われています。
コロナ禍でDVが増加するであろうと予想されるのには3つの理由が考えられます。
1.家庭内が密室化すること
外出制限が感染抑止になるとはいえ、外出自粛や在宅勤務により、家庭内の風通しが悪くなることで、DVは深刻になっていく可能性があるのです。もともとDV加害者はDVを強化するために相手を“孤立させる”という暴力を使うことが多いのですが、コロナ禍では、家庭内でDVや虐待が起こっていても、在宅勤務等で加害者が家にいる時間が増えるため相談しにくいし、家庭内で何か問題が起きていても、早期に発見されにくい状況になりがちなのです。
2.家計への打撃
緊急事態宣言により、多くの職業が経済的なダメージを受けています。在宅勤務になり残業代が出なくなったとか、勤務先が休業となってしまったために急に収入が途絶えてしまったとか、仕事がなくなってしまったという問題は、本人の努力ではどうしようもない深刻な事態です。
対等な夫婦関係であれば、ふたりで力を合わせてこの状況を乗り切ろうとするわけですが、生活の不安を共有できない夫婦が同じ屋根の下で暮らすことで、ストレスは高まり、暴力的になることがわかっています。先月は殺人事件に至るケースまで起こってしまいました。
3.夫婦間格差
国連の報告では、コロナの影響によってDVが増加したということですが、日本ではどうでしょう。当団体に寄せられる声は、深刻なケースもあるものの、その多くは夫婦間の格差へのあきらめや嘆きです。
「共稼ぎの夫婦で在宅勤務になっても家事や育児は協力してもらえないが、自分は稼ぎが少ないから仕方ない」「家に1台しかないPCを日中は夫が仕事のために独占しているので私は夜中に仕事をせざるを得ない」「一日中、細々と用事を言いつけられ、気を抜く間がない」「夫にもう少し家事を分担してと言ったらキレられてしまい、蹴られて怖かった」
今回政府が打ち出した特別定額給付金を例にとっても、申請権者は“世帯主”です。これは今に始まったことではなく、夫婦が婚姻届けを出した瞬間から、世帯主とそうでない者ということで、夫婦間の格差が始まります。世帯主ではない妻(たいてい世帯主は夫)が、夫婦の関係に違和感を感じながらも、あきらめ嘆くしかない日本の夫婦観は、世界からはどう見えるのでしょうか。私はあらためて“人権”という言葉の重要性を痛感しました。日本の人権教育は世界の中ではどの程度進んでいるのかと考えるとため息が出ます。
コロナに関連する様々な問題は終息までにはまだ時間がかかることが予想されます。経済の悪化とともに深刻なDVの問題も起こるかもしれません。これ以上被害者にも加害者にもなってほしくありませんし、DVや虐待の問題で生命の危険にさらされる人が出てほしくありません。
そのために私たちができることは小さなことかもしれませんが、まずは人間関係では最少単位と言える夫婦や家族の関係の中にこそお互いの人権は尊重される必要があること、夫婦の関係が対等ではないこと自体が人権侵害でありDVであり虐待なのだと、社会全体があらためて考えることなのではないでしょうか。