「全国部落調査」復刻版出版差止裁判の最高裁判決が2024年12月4日に出された。最高裁は原告、被告双方の上告を棄却し、東京高裁判決(2023年6月28日)が確定判決となった。これにより、2016年に提訴した裁判は8年を費やし終結した。
この裁判の大きな成果は、最高裁が憲法13条及び14条に基づいて差別されない権利を承認したことである。差別されない権利を人格権の内容として承認した判例は本件が初であり、すべての差別と闘う人々にとって画期的な成果である。
この成果は、昨年成立した「情報流通プラットフォーム対処法」の公布1年以内の施行に向けた総務省の「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第 26 条に関するガイドライン(案)」にも影響を与えている。総務省は、「他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務」において、「(私生活の平穏) 社会通念上受忍すべき限度を超えた精神的苦痛が生じた場合には、私生活の平穏などの人格的利益の侵害が成立する」と「私生活の平穏などの人格的利益の侵害」を削除対象としてあげており、その判例根拠として東京高裁判決を引用している。
しかしながら、最高裁決定は、出版などの差止範囲を限定した点は問題点として残る。東京高裁判決は「全国部落調査」復刻版に掲載されている被差別部落の所在地が46都府県に及ぶ中、権利侵害を認める原告がいない都府県については差止の対象範囲外であるとし、36都府県しか差し止めを認めなかった。差止対象から漏れた10の都府県において部落差別が生じないことはあり得ないし、最高裁は全国一律の出版差止を認めるべきであった。ただし、最高裁としても東京高裁判決が差止対象外とした10の都府県について被差別部落の地名を晒すことは違法と判断していることは広く認識されるべきである。
とはいえ、原告のいない都府県における差止を認めないことは、個人の権利侵害が前提となる民事訴訟の限界を示している。「差別されない権利」が承認されたとはいえ、「部落探訪(「曲輪クエスト」)」、「JINKEN.TV」などのインターネット上で被差別部落を暴く行為は続いており、情報は今も拡散され続けている。個々人がそれぞれ案件ごとに裁判に訴えることは容易なことではなく、国家から独立した人権委員会の設置を含めた包括的差別禁止法の制定が必要不可欠である。
最後に、確定判決の一部を紹介しておきましょう。「憲法13条では、すべて国民は、個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する権利を有することを、憲法14条1項は、すべての国民は法の下に平等であることをそれぞれ定めており、その趣旨等に鑑みると、人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益であるというべきである。そして、本来、人の人格的価値はその生まれた場所や居住している場所等によって左右されるべきではないにもかかわらず、部落差別は本件地域の出身等であるという理由だけで不当な扱い(差別)を受けるものであるから、これが上記の人格的な利益を侵害するものであることは明らかである」。