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葛飾・足立清掃工場差別落書事件に関する見解
2009年5月18日 部落解放同盟東京都連合会

 
 1、事件の概要と経過

 葛飾清掃工場で二〇〇八年一一月一九日に差別落書きが発見された。内容は「葛飾のゴミ屋共は 全員“えた非人以下のムシケラ“『クズがゴミ取ってどーする?ボケェ』(笑い)」というものであった。この差別落書き事件を取り組んでいる最中、足立清掃工場で一二月四日にあいついで差別落書きが発見され、「ゴミ屋はえた非人以下のムシケラ」という悪質な内容であった。二つの差別落書きはいずれも清掃工場敷地内の待機所のトイレに書かれており、文面や筆跡から同一人物の可能性が高いと考えられる。
 都連は事件の真相解明をおこなっていくために葛飾・足立清掃工場連続差別落書き事件対策会議を事件の関係者に呼びかけた。二〇〇八年一二月一七日、東京都人権プラザで第一回対策会議を開催した。対策会議には、東京二十三区清掃一部事務組合、葛飾区、足立区、荒川区、台東区、東京清掃労働組合、部落解放同盟東京都連・各支部が参加した。この会議では、東京二十三区清掃一部事務組合、葛飾区、足立区、荒川区、台東区からそれぞれ、事件の事実関係と経過報告がおこなわれた。そして参加団体が協力して事件の真相究明をおこなっていくことを申し合わせた。
 第一回対策会議以降、「差別落書きを書いた人物」の特定方法や事件の原因・背景を明らかにする方法が何度も検討された。そして、今回の事件の取り組みでは「犯人探しが目的ではなく、事件の動機や原因・背景の解明が目的である」ことを関係者に呼びかけすすめることを合意していった。こうした取り組みの中で足立区環境部は「落書きに至った動機は何なのか、今回の事件の原因や背景はどこにあるのか」を明らかにし再発防止に取り組むためアンケート調査を実施することにした。足立区の清掃事務所職員や雇上会社(足立区のごみ収集業務契約の民間会社)一五社の従業員を対象にアンケートが実施された。
 このアンケート調査の実施を受けて、第二回対策会議を二〇〇九年三月三〇日東京都人権プラザでおこなった。この会議にはあらたに自治労・公共サービス清掃労働組合が参加し、またオブザーバーとして、東京都と社団法人東京環境保全協会が参加した。事件の関係者が一堂に会し対策を協議したことは、画期的なことである。第二回対策会議は経過報告がおこなわれた後、足立区からアンケート調査結果が報告された。また、東京清掃労働組合、清掃・人権交流会、自治労・公共サービス清掃労働組合、部落解放同盟東京都連からアンケート調査結果に対するコメントや感想が述べられた。そして「アンケート調査で事件の原因や背景に迫ることができたことは大きな成果であること。アンケート調査結果を踏まえて、行政や労働組合、解放同盟それぞれの立場で見解をまとめること。同和研修・人権研修を柱に再発防止策を今後、対策会議で協議していくこと」が確認された。

2、事件の差別性と問題点

 1)事件の差別性
 「部落差別を利用した職業差別」


 今回の連続・差別落書き事件は部落差別を利用した悪質な職業差別である。まず、清掃事業に携わるすべての者をムシケラと蔑視し、その人権を踏みにじり、名誉を毀損する職業差別そのものである。この清掃差別をおこなう上で部落を差別的に引き合いに出し、しかも「えた非人以下のムシケラ」と露骨な差別表現を使い、差別意識を丸出しにしている。この差別落書きは意図的かつ、悪意に満ちており、断じて許すことはできない。

 2)事件の動機・原因・背景
 「格差拡大が差別の温床に」

 足立区のアンケート調査で事件の原因や背景に迫ることができた。      今回の事件の原因・背景は派遣や臨時労働者などの非正規労働者が増加し、「格差」が拡大している清掃職場の実態がある。区職員と雇上会社従業員との「格差」、また雇上会社の中でも正規と非正規社員の「格差」がある。こうした実態を背景にして、「仕事上の不満、ストレス」「職場への不満」や「人間関係のもつれやトラブル」がおきていると考えられる。清掃労働者全体の労働条件の悪化や生活不安の増大が差別事件の本質的な原因であると考えられる。
 雇上会社(下請け)の労働組合である自治労・公共サービス清掃労働組合は第二回対策会議で「清掃事業の現場は直営(公務員)と雇上(下請け)の労働者で作業がおこなわれ、雇上が運転手で、直営が作業員という組み合わせである。今日、雇上の労働者は正社員を大きく上回る数の労働者供給事業労働者(労働組合が営利を目的にしないでおこなっている労働者供給事業の労働者)、及び派遣労働者で構成されている。こうした非正規労働者は長く供給先企業で働いているにもかかわらず、その企業の労働保険、社会保険の被保険者になれない実態がある。『月一八日、二カ月を超えて雇用されるものは、その事業所の被保険者にしなければならない』という法律があるにもかかわらず、日雇い保険を適用されているのが現状である。清掃事業の現場で圧倒的な無年金者が生まれている。また、区職員や雇上会社の正社員より立場の弱い臨時・派遣の労働者にとっては人間関係などのトラブルは即、解雇という結果になる。落書きの直接の原因は特定できないが原因・背景には、こうした不満が日々積み重なり、爆発したと考えられないだろうか」という重大な問題提起をしている。またアンケートを通じて、清掃労働者の多くの人が事件の原因・背景として「格差」問題を指摘している。この指摘を大切にするならば、行政は清掃事業全体の職場環境の改善に取り組まなければならない。


 3)問題点と課題
 「同和研修の広がりと研修の質を高める」


 アンケートの回答で差別や部落問題に関する意見があった。差別についてはほとんどの人が良くないこと、差別をなくすべきとの意見である。部落問題については、雇上会社従業員の回答で「血筋で差別することなど無意味」「今だに非人等という言葉を使う人が業界の中にいるとは寂しい」などの意見がある一方で「同和地区問題はあまり良くわからない」「えた非人という言葉は若い人は知らない」「えた非人という言葉をはじめて聞いた」「えた非人の意味がわからない」などの意見があった。区職員では「研修等で学んでいる。あってはならない」「再教育を望む」など研修を前提にしている意見である。こうした意見の中に同和研修の課題がはっきりとあらわれている。雇上会社をはじめ清掃労働者全体に同和研修・人権研修を広げていくこと、研修の質を高めていくことが課題としてあることを確認しておかなければならない。
なお、社団法人東京環境保全協会主催の同和研修が五一社の雇上会社を集め、今回の事件を踏まえて、初めておこなわれたことは画期的なことである。

 3、再発防止の課題と今後の取り組み方向
   「各区並びに特別区長会へ要請」

 都連では、一九九五年に(旧)東京都清掃局千歳事業所で発生した部落差別事件(千歳事業所に勤務している八王子支部Aさんの書類箱に「キチガイヤローブラクニカエレ アサハラ」と書いた差出人不明のメモが投げ込まれていた事件)の差別糾弾闘争を取り組んだ。東京都清掃局(当時)は「こうした差別事象が発生した背景として、これまでの局の同和問題に対する認識や職員に対する研修・指導監督に不十分な点があった」と認め同和研修の改善を約束した。そして、東京都清掃局は、区移管の際、同和研修を各区に引き継ぐことを約束した。しかし、二〇〇二年に「中野区清掃事務所差別落書き事件」二〇〇七年には「東京二十三区清掃一部事務組合あて差別投書事件」と差別事件がつづいている。
 今回の事件の原因・背景としてひとつは二〇〇〇年の清掃事業の区移管以降の同和研修の不十分性があると考えられる。区移管以降の各区の同和研修の実態と課題を明らかにし、同和研修・人権研修の改善を柱に再発防止策を確立しなければならない。また、今回の事件は葛飾区・足立区にとどまらず二三区全体の課題であることは明らかであり、各区ならびに特別区長会へ再発防止策の確立を求めていかなければならない。ふたつめには、五一社の雇上会社が初めて同和研修を実施したことに見られるように、今まで雇上会社での同和研修がおこなわれてこなかったことが原因・背景として考えられる。各区に対し、「業務委託契約にあたっては、同和研修の実施などの人権課題に積極的に取り組むこと」を求めていかなければならない。

 

部落解放同盟東京都連合会
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