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プライム事件の真相究明と
東京における本人通知制度

本人通知制度は不正請求事件の再発防止策として効果がある


 事件の概要と経過

 2011年11月に1万件に及ぶ司法書士らによる戸籍謄本等不正取得事件(以下プライム事件)が発生した。
 愛知県警は東京都内の司法書士や元弁護士ら5人を偽造有印私文書行使と戸籍法違反などの疑いで逮捕した。
 プライム事件は2012年2月20日から名古屋地裁で公判がひらかれ、事件の主犯格である探偵社社長、粟野貞和に懲役2年6ヶ月(実刑)、プライム経営者、奈須賢二に懲役3年(実刑)の判決が出された。司法書士佐藤隆には罰金250万円の判決が出された。
 プライム事件の特徴は司法書士や行政書士などの8業士は司法書士会などが頒布する「戸籍謄本住民票の写し等職務上請求書」を使えば、本人の同意なく戸籍謄本等が請求できることを悪用し、「請求書」を2万枚も偽造し、佐藤司法書士が探偵社に名義貸しを行い全国で1万件にも及ぶ戸籍謄本等の不正所得を行ったことである。
 名古屋地裁の佐々木一夫裁判長は「個人情報を有償で提起して利益を上げる仕組みを作り上げた。本人の知らないところで個人情報を売買して大量に流通させ、日常生活が脅かされる被害も生じた」と指摘し、判決を出した。佐藤隆と粟野貞和は控訴したが7月18日に控訴が棄却され判決が確定した。
 また、司法書士・佐藤隆には、8月23日付けで東京法務局が懲戒処分の公告を行った。内容は「8月15日に司法書士の業務の禁止の処分を行ったので公告する」というものである。

 事件の真相究明と再発防止の取り組み

 逮捕・起訴され裁判で判決が出され、懲戒処分も出されたがプライム事件の真相究明と再発防止が行われなければならい。
 なぜなら、今回の事件は個人情報の売買の問題だけではなく、不正に取得された戸籍謄本等が不正な身元調査に使われたこと、さらに裁判でプライムの経営者奈須は「依頼の8割から9割は結婚相手と浮気の調査依頼」と証言しており、差別身元調査に使われた可能性があることが重要な問題なのである。
 部落解放同盟は事件の発覚後、直ちに全国的に公文書開示請求の取り組みを開始し、戸籍謄本等の不正請求の実態解明を開始した。
 東京都連でも都内の全区市町村に対して、公文書開示請求の取り組みを開始し、9月3日現在、23区27市町村の開示段階で合計795枚の「戸籍謄本住民票の写し等職務上請求書」が不正に使われ、大量の戸籍謄本等が不正に取得されたことが判明した。不正請求はほとんど郵送請求であった。         

 本人通知制度の法整備を実現しよう

 次に事件の全容解明のために行政に本人通知(事実告知)を求めた。現在、プライム事件で本人通知を行ったのは足立区、大田区、港区、品川区、目黒区、葛飾区、荒川区、台東区、8区であり墨田区、江戸川区が準備中である。
 本人通知は戸籍謄本等が本人の同意なく第三者(今回の場合は司法書士佐藤隆)に取られた人に行政から通知することである。具体的には葛飾区の場合、8月30日付けで「戸籍謄本・住民票の写し等の第三者による不正請求・交付について」の文書で本人に通知が行われた。これは、葛飾区の「戸籍法等に係る証明書等を第三者に不正取得された被害者への事実告知に関する事務取り扱い要領」に基づき通知されたものである。
 この通知には添付書類として@当該司法書士の戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書(写し)A官報掲載部分(懲戒処分公告)を付けている。
 この本人通知によって請求申請者の住所・氏名だけではなく、依頼者名と請求理由なども通知するのである。つまり誰が何の目的で戸籍謄本等を依頼したのかが明らかになるのである。
 通知された人はこの通知によってはじめて不正な身元調査や人権侵害に対処できるのである。このように本人通知は戸籍謄本等の不正請求事件の真相究明と再発防止にとって大きな効果がある。不正請求の抑止力としても有効である。
 プライム事件であらためて、どうすれば不正取得の再発防止や差別身元調査が根絶できるのかが問われている。 
 法務省は2006年に「探偵業法」を制定すると共に2007年には戸籍法を改正し、罰則強化や請求時の身分証提示などの防止策を打ち出した。しかし、今回のような「職務上請求書」を2万枚も偽造した不正取得事件を踏まえるならば、法整備による本人通知制度を中心とした再発防止策を確立しなければならないことは明らかである。  東京都連では、今月中にも、特別区長会と東京都連合戸籍住民基本台帳事務協議会に対して、本人通知制度の法整備を国に対して求めることなどの要請書を提出する予定である。10月には全国連合戸籍戸籍住民基本台帳事務協議会の総会があり、本人通知制度が議論されることになっている。本人通知制度の法整備をめざす運動を全国的に展開しよう。

部落解放同盟東京都連合会
http://www.asahi-net.or.jp/~mg5s-hsgw/