全国部落調査「復刻版」出版事件裁判の第1回証人尋問が8月31日、第2回証人尋問が9月14日に東京地裁で行なわれた。
第1回証人尋問では埼玉、東京から2人の証人が出廷し、東京からは松島・都連副委員長が証人として証言台に立った。第2回証人尋問では大阪、兵庫、鳥取、三重から5人の証人が証言台に立った。
裁判後にそれぞれ報告集会が中央本部で行なわれた。
第1回証人尋問報告集会
弁護団報告では、河村弁護士、指宿弁護士、中井弁護士、山本弁護士が証人尋問の成果と今後の課題について報告し、裁判の内容を共有した。 原告弁護側からの主尋問については、部落差別の現実や被差別体験を原告から裁判官に肉声で直接伝えられたことは、本裁判で裁判官たちに部落問題の認識を持たせていく意味でとても重要なことだと強調された。
また、自分の名前や出自に関する個人情報は自分でコントロールするものであり、解放運動の中で部落差別をなくすために外に出しているものであって、被告たちが勝手に出すことを認めているわけではないと主張した。被告側からの反対尋問では、ひねくれた質問を様々聞いてくるだろうと予想して想定問答を作成し備えていたが、事件の中心的な論点に関わる質問はほとんどされず、反対尋問としては不発に終わったことなどが報告された。
続いて、証人尋問を傍聴した金尚均・龍谷大学法科大学院教授、阿久澤麻理子・大阪市立大学人権問題研究センター・都市研究科教授からそれぞれの感想、裁判闘争への思いを含めた連帯挨拶が行なわれた後、証人尋問に立った原告からの報告と決意表明がされた。
証人として登壇した松島・都連副委員長からの報告では「今回自分に課せられた課題、一つは、自分の個人情報をどこまで開示するかは自分自身が選択して決めてきたことであり『自己情報のコントロール権』の観点から被告の行為の不当性を明確にすること。二つ目は、被告らの行為によって、今まで知られていない人、知らせていない範囲にまで部落出身であることが知られたこと。その不安や心配の増大、それ自体が被害であると訴えること。三つ目は、出身を明かしている部落民はわずかであり、隠しながら暮らしている被差別部落出身者がほとんどであること。地方から東京に出てきて暮らしている被差別部落出身者や部落にルーツを持つ人たちが直面する差別の現実を、実例を示して裁判長に訴えることであった。自らの運動への確信、弁護士と何回も行なった想定問答によって、的確に対応できたと思う。反対尋問では、部落の悪いイメージの意識づけを被告は図ろうとしたのだろうが、勉強不足で不発だった」と報告し「今日においても、結婚などに関わる差別身元調査が行なわれ、地域では差別落書きなどが発生し、インターネット上には出自、部落民であることを暴く材料がばらまかれている。一刻も早く、被告らの行為をやめさせ、その犯罪性を明確にした判決を勝ち取り、裁判に完全勝利しよう」と訴えた。
同じく証人として登壇した片岡・中央副委員長が「被告たちの行為が差別の被害を生むのだと裁判長が認識できるようにしたい。気を緩めずに支援を」とまとめた。
第2回証人尋問報告集会
西島・中央書記長が「部落差別の現実をしっかりと訴えて裁判長が理解したうえで、横浜地裁相模原支部の判決を上回るような判決を出してもらいたい」と開会挨拶を行なった後、中井弁護士、山本弁護士、指宿弁護士、河村弁護士から弁護団報告が行なわれ、裁判の内容を共有した。
主尋問について、それぞれ個性的な尋問となり、想定問答で作っていた内容を越えてその人らしさが出てきて良かったと思う。反対尋問では、支部はどこだ、部落解放やネット上の記事に原告の名前が出ていることを指摘する質問など、ただ被告が言いたいことを言うだけといったような事件の論点とは関わりのないものばかりだった。
続いて、阿久澤麻理子・大阪市立大学人権問題研究センター・都市研究科教授が連帯の挨拶を行なった後、証人として出廷した田村さん(大阪)、池田さん(兵庫)、西田さん(大阪)、下吉さん(鳥取)、松岡さん(三重)から証人尋問の報告と感想があった。
その内、西田さん(大阪)は「働きながら解放運動をしていること。家族や子どもたち地域の人が差別されないように、差別する社会を変えるための運動をしていること。ネット上の書き込みは一度でも書かれたら消えない情報で、これが差別に利用されないように自分の発信の中でも気をつけていることを裁判長に分かるような言い方で証言できたと思っている」と話された。
最後に、片岡・中央副委員長が「裁判もいよいよ大詰めを迎えており、絶対に負けられない。油断せずに必ず勝利しよう」とまとめた。