東京が、日本が、世界がこんな状況になることを、誰が予測できていただろうか。
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、2月に大規模イベントの自粛要請がなされ、2月末には小中高校の一斉休校がスタートした。3月に入り、観光業や宿泊業などでの経営不振が報道され、4月には首都圏など都市部で緊急事態宣言が発出された。
緊急事態宣言下では、「新しい生活様式」を求められ、テレワーク等が推進されたが、一方で、休業要請を受けた飲食店は苦境に立たされた。
6月に入り、出勤を再開した企業もあれば、都内では学校の分散登校等が始まったが、感染の第二波がいつ来るのか予断を許さない状況である。
また、経済へのダメージは甚大だ。「保障なき自粛」によって、多くの事業所が休業したり、営業時間を短縮して対応してきた。なんとか雇用を守ろうとしてきた事業者側も、この事態が長く続くと雇用を切らざるを得ないところも出てくるだろう。実際に、直近の厚労省の発表によれば、新型コロナウイルスの影響による解雇や雇止めは5月29日時点で、累計で16723人にものぼると言う。
私が理事長をつとめる認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでは、4月より感染症対策をとりつつも、緊急の相談体制をとって、対応している。通常の相談活動よりも相談日を増やし、また、新宿ごはんプラスという新宿で食料品配布をおこなう団体とも連携して、毎週新宿の都庁下の路上で食料品配布と相談会を開催している。
4月、5月で、相談に訪れた人は400人近くにのぼり、1500人分の食料品を配布した。
所持金が数百円しかない、派遣の寮を追い出されて住まいがない、ネットカフェが休業要請で閉まってしまって泊まるところがない……そういった相談がひっきりなしに寄せられている。
また、日雇いなどの仕事もなく、他団体の炊き出しも減少し、野宿の方への支援は手薄になっているなど、生活困窮者支援の現場は待ったなしの状況である。全国各地の支援団体がそれこそ手弁当で支援に奔走しているが、状況が長引けば息切れはするし、自助や共助には限界がある。
一人あたり10万円の定額給付金は、4月末に閣議決定がなされてから1か月が経過したが、ほとんどの家庭に届いていない。都内は6月末の振り込みになる、などとも言われている。多くの人にとって、政府からの支援が、まだアベノマスク2枚のみ(しかも全国ではまだ届いていないところが多い)というのは、何ともお粗末な事態である。
生活保護制度や緊急小口資金貸付、住居確保給付金などの生活困窮者を支援するための窓口は多くが混雑し、通常時を大きくこえる相談件数でパンクしそうな状況だ。多くの人が、収入を減らし、貯金を崩し、生活を我慢し、自粛して耐え忍んでいる。
保障や支援がないなかで、もっとも苦しくなるのは、日常的に収入が低い、貯金が少ないなどの、もともとギリギリのところでやってきた人たちである。彼ら彼女らの存在を、私たちの社会は無視してきた。
Withコロナやアフターコロナなどの、これからの社会の在り方を論じる言葉がさかんに語れるようになったが、いま私たちが考えなければならないのは、苦しい状況にある人たちをどう支えていくことができるのか、である。
非正規で働いてきた、フルタイムで働いていても収入が少ない、安心して子どもを預けられる場所がない、職場の理解が得られず子育てしながら働くことが難しい……。
これらの元々日本社会が抱えている問題を解決することなしに、新しい生活様式や、新しい社会の在り方は描くことはできない。
私たちは現場の視点から、公助の必要性や在り方をあらためて問いかけていきたい。