インターネット上の差別事件と取り組み課題
部落解放同盟東京都連合会書記長 近藤登志一


「部落差別の実態に係る報告書(法務省)」から抜粋

 インターネット時代において、その便利さと同時に残念ながら差別や人権侵害は強まりつつある。インターネットの特性は、①時間的・地理的制約がない、②基本的に対象が不特定多数、③匿名性、④情報発信、複製、再利用が容易などである。特に、その拡散力は差別をより強力なものにする。コロナ禍においてネット上の差別が強まって、今こそ対策の強化が求められている。以下では現在考えられるインターネット上の差別をなくす方策について法整備、事業者の役割、運動側の役割という3点の観点で考えてみる。

法整備

 第1に、ヘイトスピーチ(差別煽動)など悪質な差別情報は「法律で処罰すべき犯罪(「人種差別撤廃条約」)」と位置付けた差別禁止・人権侵害救済法(仮称)の制定が求められている。また、その上で、ドイツのソーシャルメディア法のように削除しないプロバイダやSNS事業者に罰金を科すといった法整備にも学ぶべきである。

 第2に、インターネット上の差別や人権侵害に的を絞った法を整備することである。すでに弁護士や研究者らによる「ネットと人権法研究会」が「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」を示しており、「差別禁止」や「削除」にむけた「特定電気通信役務提供者の責務及び免責事由」等の条項も入っている。

 第3に、現行法の改正としては、「プロバイダ」や「SNS事業者」が差別情報を削除しやすいように、「プロバイダ責任制限法」を改正することも急がれる。

 第4に、現行で唯一、制度として(法律ではなく)差別に対処できるのは「人権侵犯事件調査処理規程」(法務省の対策)である。しかし、「全国部落調査復刻版」「部落探訪」など未だ削除できていない現実を見ると、現在の差別に対応できない限界があり、現実に対応した改正が必要である。

 第5に、行政等による教育・啓発の強化はもちろんであるが、加えて、モニタリング事業の導入である。モニタリング事業は、相談・通報・モニタリングなどで実態・現実を把握し、行政自らがプロバイダ(あるいは法務局)等に削除要請する取り組みである。モニタリング事業は、現在180の自治体(昨年10月現在)で実施しており、国が法整備をおこなわない現実の中で、実質的な拡散防止、人権救済策として成果を上げている。現在、都内では、台東区がモニタリングを実施しており、墨田区、荒川区も試行的に実施している。都区市町村に拡大していくことが必要である。

SNS等事業者の役割

 プロバイダやSNS事業者の自主的取組の推進。利用規約等に差別の禁止を明確に規定し、違反報告等を受け違反情報については早急に削除する体制が求められている。現在、(社)電気通信事業者協会、(社)テレコムサービス協会(社)日本インターネットプロバイダー協会、(社)日本ケーブルテレビ連盟が構成員となる違法情報等対応連絡会が発足しており、「契約約款のモデル条項」の作成や普及などの活動をおこなっている。しかし、Goog leやYouTubeはこの業界団体には加盟しておらず、外資系も含めたアウトサイダーに対する対策が必要となっている。

市民、運動側の取り組み

 第1に、インターネットの経済基盤は企業による広告収入に支えられている面が大きい。差別サイトに広告を出さない企業の取り組みはインターネット関連業者やサイト運営者に与える影響は大きい。また、差別情報を放置しているSNS等から広告を撤退するという取り組みも有効である。

 第2に、運動側の取り組みとしては差別情報を発見したとき、「違反報告」をすることである。しかし、YouTubeなどは「違反報告」になかなか応じず、多数の「違反報告」は差別サイトの閲覧者を拡大し差別者の広告収入を増やすだけだという意見もあるが、「放置」していても閲覧者の増加が見られる差別サイトもあり、YouTube社そのものへの要請もおこないながら、集中的組織的な「違反報告運動」を展開し事態の重大さをYouTubeなど事業者に分からせなければならない。

 第3に、インターネット上の反差別情報を拡大していく運動も重要である。ホームページの開設・充実、SNSでの発信など反差別の情報を広げていくことは今日重要な取り組みである。

 以上、9点ほど対策を述べたが、それぞれ組み合わせながら総合的に実施していくことが求められる。

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