法務省「部落差別の実態に係る調査報告書」から
東京の実態と課題③


図5、図6

5 教育・啓発・ 研修の実態

 「意識調査」では啓発事業について調査、分析している。

⑴部落差別解消のための啓発事業へのアクセス

 「意識調査」では、部落差別を「知っている」と「何となく知っている」人(220人)に、部落差別解消のための啓発等の機会の程度やその受け止め等について調査している。質問内容は①「講演会や研修会、地域懇談会、人権フェスティバルなどのイベント」②「市町村等の広報誌、パンフレット、掲示物(ポスター、看板等)」③「新聞、書籍、雑誌」、④「インターネット」⑤「テレビ、ラジオ、映画、ビデオ」を「参加したり見たり聞いたり読んだり」したことが、①「3回以上」②「1~2度」③「ない」から選択する形式になっている。

 いずれも「ない」という回答が一番多いのでその結果のみ紹介する。図5の通り、イベント、広報誌、インターネットによる啓発への参加率は低い。また相対的に新聞等、テレビ等で見たり聞いたりしたものが他の啓発媒体より多く利用されていることは確認しておく必要はあるだろう。しかし、放映内容や報道内容等が分からないのでその啓発効果等は判断できない。

⑵教育・啓発に関する認識

 「部落差別に関する問題を解消するために学校教育や啓発(講演会、研修会、広報等)を今後どのようにすればいいか。」という質問に、図6の通り、「方法や内容を変えるべき」が42・7%(全国37・6%)で最も多い。年代別では18歳~29歳代(全国47・5%)で多い。これまでの集客を重視するイベントの開催等からもっと効果的な啓発手法を求める声が特に若い世代を中心に多いということである。

 また、「あまりやらないほうがいい」「やるべきでない」「解消する必要はない」が12%、「わからない」も19・5%いる。根強い「否定論」があることに注意すべきだ。

⑶部落差別解消推進法の認知度

 「部落差別解消推進法を知っているか(全体数314人に対して)」という質問に対して、

 「知っている」は7・3%(全国8・7%)、「名前は知っているが内容は知らない」は22・6%(全国22・8%)、「知らない」は69・4%(全国67・6%)で、「知っている」が7%しかおらず、部落差別解消推進法の周知徹底がなされていない結果が表れている。

おわりに
~教育・啓発の課題~

 新聞紙上では部分的な紹介しかできなかったが、この「調査報告」で都区市町村の教育・啓発の課題が示されたと思う。

 第1に、交際や結婚等において部落差別が根強く存在していることが改めて確認された。また、インターネットにおいても「被差別部落の所在地」を示す情報の閲覧者が多く、土地差別、結婚差別、就職差別に利用されており、差別身元調査等を誘発、煽動する情報に対する法規制含めた対策が必要とされる。

 第2に、部落問題について「曖昧な認知」が多く、特に学校教育現場において、部落問題の正しい理解を促す教育の強化が求められている。都指定の「人権尊重教育推進校」は51校あり都立学校約2300の2%ほどである。「モデル」となるべき「推進校」の増枠と「モデル校」として全学校へ波及すべき教育内容の創造が急がれる。

 第3に、行政等が主催する啓発イベントや広報、啓発冊子等にアクセスした人が少なくその改善が求められているとともに、啓発内容や手法を変えるべきという声も多く、啓発効果を上げるためには集客を成果基準にするといったこれまでの考え方を改める必要がある。

 第4に、「曖昧な認知」が多い中、「正しく認知、理解させる」ためには、教育、啓発の内容として「差別の現実に学ぶ」を原則に据えることが重要である。「差別の現実に学ぶ」とは、部落差別の現実と部落の労働や生活、また差別との闘いに学ぶことであり、そのために部落解放をめざす当事者運動との連携が不可欠である。当事者性を基本に据えた教育啓発が必要である。

 第5に、法務省の調査で改めて差別の現実と教育・啓発の在り方を改善する必要性が明らかになり、東京都区も全国同様の傾向があることが分かった。しかし調査数が少ないこともあり、改めて都区市町村は「部落差別解消推進法」の具体化として独自の実態調査を実施し、差別を撤廃するための課題を見つけ出すことが求められている。(完)